Geophysical Research Group
FNCT

福井県鯖江市付近に認められる低地震活動域とそのテクトニクス

岡本 拓夫* 平野 憲雄** 西上 欽也** 竹内 文朗** 和田 博夫**

Seismic Gap and its Tectonics in and around the Sabae City, Fukui Prefecture

Takuo OKAMOTO, Norio HIRANO, Kin’ya NISHIGAMI, Fumiaki TAKEUCHI and
Hiroo WADA


Abstract
A clear seismic gap was recognized in and around the Sabae City, Fukui Prefecture. In that zone, no earthquake ( greater than M1.0 ) has occurred in observed time ( May 1976 ― July 2010 ) by Hokuriku Observatory, Kyoto University. The lower limit of hypocentral depth of crustal earthquakes is most shallow at that zone. P-axis orientations of earthquakes differ from eastern part to western part at that zone. The tectonics of that zone is very difficult from the reason above mentioned.

Key word:Seismicity, Seismic gap, Active fault, Strain, Fault plane solution



1.はじめに
福井県は, 有史だけみても大地震の発生による被害を被っており, 特に濃尾地震(1891, M8.0)や福井地震(1948, M7.1)は顕著な例である. 内陸型大地震の発生は, 規模の大きい活断層の活動によるもので, 福井県周辺には多くの活断層が存在していることが地震の発生状況より理解できる.地震活動は, 業務的には気象庁により把握されており, 気象庁の観測がなかった歴史地震は宇佐美1)によって古文書等より推定され報告されている. 最近の詳細な活動(以下微小地震活動:M3以下の地震)については, 京都大学防災研究所付属地震予知研究センター北陸観測所(以下北陸観測所)の観測網によって明らかにされた(例えば, 竹内他2)). 北陸観測所に関する観測状況は, データと解析の章で詳しくふれることにする. 福井県及び周辺の地震活動の特徴としては, 濃尾地震の余震活動と福井地震の余震活動の存在である. 現在でも, それらの余震活動が認められている. 余震活動は一連の帯状活動として認められ, 日本海の方にまで伸びていき, 大聖寺沖地震(1952, M6.5)の余震域まで至っている. 石川県との県境においては活火山である白山が存在し, 群発的要素を伴いながら浅い地震が発生している. 低周波地震の発生をともなっていることや前回の噴火より400年近く経っており, 噴火を想定した地震観測網の配置やハザードマップの作成が必要だと考えられる. 同時に, 九頭竜川水系の水源にもなっており, 研究の重要性を伺い知ることができる. 防災上の観点より福井県及び周辺を見てみると, ライフラインや交通網が一点を必ず通過する(迂回路をもたない)特徴が伺える. この点は救済や復興の迅速性を考えると大きな欠点となる. 気候学的観点でも積雪をともない, 積雪を考慮した防災も考えなくてはならない. 以上のような特性をもつ福井県において本小論は, 特に鯖江市付近に認められる明瞭な地震の低活動領域(以下空白域)に着目し(例えば岡本他3)), その物性や物理的状態について言及したもので, さらに必要な解析について述べたものである. 鯖江市付近に認められる空白域の研究が, 地震の発生予測のプロジェクト研究に繋がればと考えている. 以下, 詳細に報告する.


2.データと解析
 Fig.1に, 北陸観測所による嶺北地方を中心とした地域のM≧1.0でh≦30kmの震央分布図を示す. 岡本他3)や竹内他2)で指摘されているように鯖江市付近に顕著は空白域(矢印)が認められる. 空白域の直径は南北に約20kmで, M≧1.0の地震までチェックしても北陸観測所が観測を開始して以来ほとんど地震が発生していない. 空白域の西縁は宝泉寺断層に伴う地震活動, 東縁は福井地震断層や濃尾断層帯に関連する活動で区別される. 南北縁に対応する地表トレースはないが, 縁部はシャープな地震活動のコントラストを持っている. 震源分布としての特徴を見る為に, 平野4)による結果をfig.2に示す. 期間は北陸観測所の旧観測システムの期間で, しかも震源決定方法(使用観測点とプログラム)が同じものがプロットされている. 地殻内地震の発生する深さの下限に着目すると, 濃尾断層帯より北に向かって浅くなり, 福井地震断層から海に向かって深くなっている, すなわち, 空白域周辺で最も地震活動が浅くなっていることが分かる. 平野4)は熱流量と関連付けているが, むしろ応力の変化やテクトニクスが関連しているように思われる(後章で考察する). 岡本他5)は, 地震活動の特徴として濃尾断層帯より福井地震断層に至る帯状の活動が, 鯖江市東部付近で分断されている可能性を指摘している. つまり, 濃尾地震の断層運動の北進が, また, 福井地震の断層運動の南進が鯖江市東部付近でストップした可能性を意味する. Fig.3に, 岡本他5)による最近発生した鯖江市東部付近の地震のマイグレーションの様子を示す. 地震群は東西の分布を示し, 一番浅い活動は図中の東西のリニアメントの間に発生したもので, 深さが5km未満になっている. やや南側(南側のリニアメントの南)発生した地震群は東西の分布で空白域に向かって深くなっている. 東西のリニアメントはそれぞれ北より, 白椿山断層, 殿上山断層と呼ばれている. このリニアメント沿っては湧水が分布し, リニアメントが活断層である可能性を示唆している. 空白域周辺で最近確認することができた最も顕著な現象は, 2005年前後に認められたM≧2.0の地震の発生数の極小期の存在である. Fig.4に震央図とそのM-T(マグニチュード別, 時間別による発生の関係)図を示す. 矢印で示したところが, 発生数の現象に伴い棒グラフの密度が小さくなっていることが分かる. この期間は, 岡本他6)や福井地方気象台7)が示した有感地震発生の地域変化の開始時期に対応している. この期間前までは, 福井県で微小地震が発生している地域全体で福井県において有感が記録される地震(ほぼM≧2.5)が発生していたが, この期間を境にして特定の地域(奥越, 冠岳, 熊川宿の各周辺)に限られるようになってきた. この特定の地域は現在指摘されている新潟―神戸歪集中帯に入っており, 福井県及び周辺の他の地域と発生様式を異にしている可能性が考えられる. 尚この期間の現象傾向は, 気象庁の一元化データでも存在していることを確認している.


4.鯖江の空白域と応力
 空白域周辺で応力がどのような向きになっているのか, 次に議論する. 現在の地震学においては断層運動が地震の原因で, 弾性反発説で説明されるように断層の滑りによって地震波が励起され, 地表面に地震動をもたらすと考えている. 地震波の励起は二対の偶力(ダブルカップル)よって説明でき, 応力の向きによって断層の滑り面が決まる. 逆に, 波形解析から得た発震機構により主圧力軸を求めることができるのである. 空白域の周りで主圧力軸がどのような分布をしているのか把握することは, 空白域の性質を知る上で非常に重要なことである. Fig.5に, 震央図と最近発生した発震機構を求めた地震の位置と発震機構を示す. 発震機構の図中でのpのマークが, 主圧力軸の向きを示す. 空白域の西側では最近発生するM≧2.5の地震が少ないので決定論的に言えないが, 西側で発生した地震と東側で発生した地震の主圧力軸が異なっているように見える. すなわち, 主圧力軸が西側ではほぼ東―西であるが, 東側では時計廻りに振った向きになっている. 西上他8)によれば, 鯖江の空白域の領域は均質度が高く地震波が擾乱されにくい, もし内部に活断層が存在するならアスペリティー(強く固着し、破壊時に波動エネルギーを強く放出する)の可能性があると指摘している. 西上他9)の結果と空白域周辺で応力が変化していることは, 空白域の応力が高い状態にあるという意味で矛盾しないと考えられる. 空白域の内部に関する議論は, 次章で行う.


5.鯖江の空白域の意義
 前章でも示したが, 鯖江市付近には明瞭な空白域が存在する. 空白域内部の地球物理学的な特徴に言及すると, 活断層と思われるリニアメントが存在する事である. 岡本他9)や山本他10)で経緯や途中経過が報告されているが, 空白域の中心部には鯖江台地が存在し, 台地東縁部に存在する崖の連続(リニアメント)が活断層(鯖江断層と呼称)であることを確認している. 空白域はその性質上, 地震の可能性がない, 準備中, 直前のドーナツ化現象の状態が考えられ, 活断層が存在する場合には後者の2つであると考えられる. どちらの状態かは, 活断層を直接調査(例えば、トレンチ調査)し, 摩擦構成則に従ってリカレンスタイムより推定するよりほかない. 鯖江断層を調べる会11)によれば, 現段階の解釈として鯖江断層の活動度はかなり高いこと, 最新の活動も1500年前後の幅を持つものの推定(1500〜3000年前)されている. さらに波形解析等によって空白域の物性を調べることができれば, 鯖江の空白域が地震の発生予測のテストフィールドとなりうる可能性も指摘できる. できれば, 総合観測体制を構築したいと考えている.


5.まとめ
 鯖江市付近には, 微小地震まで含めて地震の発生が認められない地震活動の明瞭な空白域が存在する. この空白域は, 北陸観測所がテレメータ観測を開始(’76年5月)して以来存在し続けている. この空白域周辺で, 2005年頃にM≧2.0の地震の発生が減少する期間が認められた. また同期間を始まりとして, 福井県で有感と計測される福井県付近で発生する地震が, 特定の地域(奥越, 冠岳, 熊川宿付近)に分布するようになった. 最近周辺で発生した地震の発震機構を調べると, 空白域の東西で主圧力軸の向きが異なっていることが分かった. これらのことは, 空白域の応力状態が高いことを意味しているのかもしれない. 空白域には活断層が存在し, アスペリティーとしての性質を持つ可能性も指摘されている. 地震の発生予測の研究の面においても, 重要な地域であると考えられる.


6.謝辞
 研究を進めていくにあたり, 防災科学技術研究所の井元政二郎博士, 建築研究所の古川信雄博士, 京都大学防災研所の片尾浩准教授, 関東学院大学の前田直樹教授には解析プログラムの面でお世話になりました。気象庁福井地方気象台よりは, 毎月地震活動報告を頂いております. 福井高専地球物理学研究会の学生には, 全面的な協力を頂いております.以上の方々に, 記して感謝致します.


参考文献
1)宇佐美龍夫, 新編「日本被害地震総覧」, 東京大学出版会, (1987)
2)竹内文朗・渋谷拓郎・松村一男・岡本拓夫, 「北陸観測所30年間の地震観測(2)−b値の変化−」, 京都大学防災研究所年報, 第52号B、pp.263-268, (2009)
3)岡本拓夫・平野憲雄・竹内文朗・西上欽也・和田博夫, 「鯖江市付近に認められる低地震活動域周辺で発生する地震の特徴」, 京都大学防災研究所年報, 第52号B, pp.269-274, (2009)
4)平野憲雄, 「Upgrading the Seismic Observation and Analysis System for Advanced Application of the Database」, 京都大学博士論文, (1997)
5)岡本拓夫・平野憲雄・和田博夫・竹内文朗・西上欽也, 「2007年12月21日に鯖江市東部付近で発生したM4.5について」, 月刊地球, Vol.30, No.9, pp.431-438, (2008)
6)福井地方気象台, 地震活動図, 月刊
7)岡本拓夫・平野憲雄・和田博夫・西上欽也・竹内文朗・伊藤潔, 「福井県及び周辺の地震活動とテクトニクス」, 京都大学防災研究所年報, 第51号B, pp.235-239, (2008)
8)西上欽也・平野憲雄・竹内文朗・渡辺邦彦・岡本拓夫. 「北陸地方の地震活動と地殻不均質構造」, 月刊地球, Vol.30, No.10, pp.463-470, (2008)
9)岡本拓夫・橋本たづの・山本博文・小嶋啓介・井上哲夫, 「鯖江断層トレンチ調査―経緯―」, 本校紀要, 第41号, pp.105-112, (2007)
10)山本博文・岡本拓夫・小嶋啓介・木下克美・江戸信吾, 「鯖江断層の地形的特長とトレンチ調査」, 月刊地球, Vol.30, No.10, (2008)
11)鯖江断層を調べる会, 私信


*一般科目教室 **京都大学防災研究所付属地震予知研究センター










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